カタールW杯のサポーター
『サッカーのカタール・ワールドカップ(W杯)は18日(日本時間19日)、アルゼンチンとフランスが決勝で激突する。
アルゼンチンは毎試合、大勢の母国サポーターが大声援を送っているが、現地にいる同国のサポーターを英紙が直撃。
「家に帰ったら一文無し。でも気にしない。欲しいものはW杯優勝だけだ」などと驚くべき熱意を特集している。
英紙「ザ・サン」は「お金がなくてアルゼンチンに帰れるはずもない、それでも我々の英雄メッシがW杯を掲げるのを見ることだけが唯一の関心事だ」との見出しで記事を掲載。
アルゼンチン経済について「月の平均給料は320ポンド(約5万3000円)と国民は貧しく、ほとんどの人が2、3つの仕事を掛け持ちして一日16時間働いて、高額な請求書の支払いのため苦しんでいる」と現状を説明した。
それでもサッカーへの情熱は、多くのファンにカタール行きを決断させたようだ。
同紙はアルゼンチンの首都ブエノスアイレスでワインビジネスも手がける弁護士のニコサル・オレジャーノ氏にインタビュー。
現在はW杯観戦のため首都ドーハに滞在しているオレジャーノ氏について「彼はスペインへ飛び、そこからロンドン、ドバイを経て、バスと電車でサウジアラビアを通過してドーハへ到着した」と現地入りの長い道のりを紹介した。
30歳のオレジャーノ氏は現在、「ほとんど資金を使い果たし、ドーハの南にあるアルゼンチンファンのコミュニティに滞在している」という。
記事ではオレジャーノ氏のコメントも掲載。「私にはお金はなく、どうやって帰国するのか見当もつかない。それでもここで去ることはできない。リオネル・メッシがW杯を掲げるまで、あとほんの少しなのだから」とこのように決意を語っていた。
「母国では政治家が我々を失望させているけど、サッカーの代表チームは違う。彼らは我々にとって唯一の希望なんだ」「私の恋人は、資金が底を尽きたときに500ドル(約6万8000円)貸してくれた。
でもカタールへ来るために家を売った人も知っている。アルゼンチンの人々は苦しんでいる。でも多くの人がここまで来て、留まってチームをサポート出来るように、ファンに寄付する人さえいるんだ」
アルゼンチンサポーター「家に帰ったら一文無し。でも気にしない」 会計士でパートタイムの肉のトレーダーでもある36歳のハビエル・マフムド氏もカタールへ観戦に訪れた一人。
記事では「パートナーの34歳カルラ・バルレッタさんとブエノスアイレスにある家のために貯金をすることに苦戦している」「しかしカルラさんは彼の決断を支持。エジプトとレバノン経由でのドーハ行きのために貯金を全て使い果たした」と紹介され、このように代表チームへの愛を語っていた。
「母国の経済は酷い。でもリオネル・メッシは勝って恩返ししてくれるだろう。残金はほんの少しで決勝のチケットもない。でもここまでチームについてきたのだから、どうにか観戦する方法が見つかるのを願っているよ」
マフムド氏は、周囲の支えがあって現地観戦できていることにも感謝。「家に帰ったら一文無しでクリスマスプレゼントを買うことも出来ないだろう。でも気にしない。家族は理解してくれるんだ。欲しいものはW杯優勝だけだ」と母国にとって3度目の栄冠を熱望していた。』
アルゼンチンに限らず、ブラジルなど南米にはサッカー応援に人生をかけている人が大勢いる。
ブラジルなど多民族国家で、人種も色々で貧富の差が大きく、人口も多い国では、なかなかブラジル人としてのアイデンティティーを意識することが少ないような印象を受ける。
私は南米を旅行したことがあるが、その時感じたのがブラジルを1つにするのって、サッカーのブラジル代表を応援している時ではないかと思ったほどだ。
アルゼンチンはイタリア系移民が多いが、サルタ、フフイなどボリビアに近い地域にはアジア系の顔立ちをした少数民族も暮らしている。
特に今回のアルゼンチンは、マラドーナと人気を二分するメッシの最後のワールドカップということもあって、いつも以上に気合が入っている気がする。
メッシはサッカー史上でもトップ5に入る名選手ではあるけど、アルゼンチン代表チームでは大した実績を残していない。あれほど、クラブでのタイトルや個人のバロンドール賞受賞などある名選手がだ。
ライバルであったポルトガルのC.ロナウドと共に、ワールドカップでの優勝が1度もない。
ブラジル大会で決勝まで行って初タイトルかと思ったが、ドイツに敗れて準優勝だった。
南米の大会でも、メッシはアルゼンチン代表のチームでタイトルが取れず、もう一人の英雄マラドーナの代表チームでの貢献と比べて物足りないと、色々な批判を受けたりもした。
ようやく2021年にコパ・アメリカで優勝してやっとという感じだったから、メッシもアルゼンチンの国を背負った戦いであるワールドカップのタイトルは何が何でも欲しいところだ。
現在サッカー選手としてNO1ではないかと言われているフランスのエムバペは、まだ弱冠23歳だというのに、既にロシア大会でワールドカップ優勝を経験している。
そして今大会でもエムバペはメッシと共に得点王争いをしているライバルでもある。
そんなアルゼンチンサッカーファンにとっては、いつも以上に熱くなる理由がある。
だけど、日本人からすれば、後先考えずにサッカーの喜びだけに浸っていてどうする?という疑問を持つ人が多いだろう。
恐らく家を売ってとか、帰りの航空券代がないけどと言った破天荒な応援は理解できないに違いない。
ここで日本人とアルゼンチン人の幸せの違いがあるのではないかと思う。
日本人は将来のことを常に考え、貯金率も諸外国に比べてかなり高いと言われている。 一方、アルゼンチンは借金国だし、生活保護に関しても政府はそんなに当てにならない状況。政治的に不安定な時期も多い。
こんなにアルゼンチン経済が悪化して借金もあるのに気にしないというラテン的な性格がすべて悪いというわけではない。
それは幸せに対する考え方の違いともいえる。
生活が苦しいと言っても日本人は餓死するような状況にあるわけでもない。だけど、自殺者は多い。 貯金をして人生を楽しむことをあまりせずに亡くなる人も多いと言われている。
人間が感じる幸せについては、物質的な満足度よりも思い出などの経験の方が後々まで幸せな気分でいられるという研究もある。
カタールに行っている熱狂的なアルゼンチンサポーターにとっては、それがメッシの掲げる優勝トルフィーだということだろう。
日本人とは違った幸せ感を見ているのは確かだ。
だからこそ、南米のサッカー代表選手は日本代表などと比べ、物凄いプレッシャーを受けているともいえる。 特にエースを言われる選手は、勝てばヒーローだが、ちょっと負けが続くとSNSなどでも批判の的になる。国民みんなサッカー通のような感じだから、色々な批判が起こる。
監督もそうだが、代表選手もメンタルが強くないとやっていられないだろう。
またワールドカップで一度ミスをして命が奪われたりする事件も実際に起こったりしている。コロンビアのエスコバル選手はオウンゴールをして帰国したら、殺されてしまった。
南米の熱狂的なサポーターは、勝っている時はいいが、負けてしまうと狂気に走ることもあるのだ。
サッカーの勝敗が人生を大きく左右することもある。
サポーターが人生をかけて応援しているというのは、メッシやネイマールなど国を代用するエースにとっては、とてつもなくプレッシャーだということ。
今大会でも優勝最有力国と言われていたブラジルがクロアチアにPK戦で負けた時、ネイマールが涙して、次の大会に出るかどうかわからないという発言をした。
ネイマールはまだ30歳。次の大会でも34歳だから、普通に考えればあれだけの才能を持った選手が代表に選ばれる可能性は非常に高い。
でも、メンタル面が持たないということだろう。ネイマールは10代からブラジル代表として活躍してきたが、毎回優勝候補と言われながらワールドカップでの成績は決して良くない。ワールドカップの決勝に進んだことさえもない。
ブラジルの伝説、ペレは何度かブラジルを優勝に導いた。
ネイマールのような偉大な選手はペレのような歴代の偉大な選手と比べられるのだ。
いくらクラブチームでタイトルを取ったり、個人でタイトルを獲得しても、国の代表で良い成績を残せていないと、色々文句を言われるのが宿命とも言える。
サッカー王国ブラジルの主将とエースを言うのは、我々日本人には理解できないほどのプレッシャーがあるのだと思われる。
実際、メッシでさえ、南米タイトルさえ取れなかった時に、批判に耐えきれずアルゼンチン代表を引退するというような発言をしていたことがある。
たかがサッカー、されどサッカー。
アルゼンチンやブラジルのように南米では、サッカーに対する情熱が我々日本人とは比較にならないほど熱い人が多いのだ。
アルゼンチンやブラジルなど南米のサポーターにとってのサッカーは、その人の人生を賭けるだけの価値があるものと言うこともできるね。
だからこそ、今回はアルゼンチンのメッシに優勝トルフィーを掲げさせてあげたいな。