日本語教育と外交

ブラジルの日本語教育の危機

『「このままだと夜間部がなくなるかもしれません。日本語学科は危機的状況にあります」――サンパウロ総合大学(USP)文学部日本語学科の田代エウザ教授(59歳)が2日、学生5人(オンライン1人)と編集部を訪れ、同科の窮状を訴え、理解を求めた。

 USPはサンパウロ州政府が予算を組んで、同大学が管理運営を行っている。しかし、5年ほど前から教員が定年などで辞めても補充しなくなり、教員数がどんどん減っている。

 2014年に契約開始された教員が最後の新入教員で、それ以後の補充はない。その結果、2015年当時は9人いた教員が現在は5人にまで激減した。

 日本語学科は東洋言語の中で唯一、昼間と夜間の2部制を敷くほどの人気を持つ。たびたび大学側に補充を要請しているが、「予算がない。夜間部をなくしたら」などの声が非公式に聞こえてくる状況だという。

 大学教授は通常、必修科目と選択科目を教えている。前者は日本語学科の学生が卒業するために必要な必修単位で、必ず授業をやらなければならない。後者は、他の学科の授業でも単位として認められるので、日本語学科でそれが開講できない場合は、学生は他の学部、例えば韓国語や中国語などを履修することになり、日本語離れが進む原因になる。  

 現在、日本語学科1年生は昼間の定員35人のところ50人、夜間28人のところ40人も学生がおり、人気が高い。学科全体だと230人にもなる。「一番人気が高い欧州言語のイタリア語やフランス語と変わらないぐらいのレベル」と田代教授は説明する。

 教員数が減ると各人の負担が重くなり、選択科目がどんどん減り、今後最悪の場合、夜間がなくなる可能性があると言う。

 飯塚ガブリエルさん(26歳)は、「ボクのように昼間働きながら、夜間に通っている人は多い。年齢層が少し高く、すでに職業を持ちながら勉強している人が多いから、より多角的な議論ができる場となっている。それが無くなるのは大変惜しい」と論じる。

 モニケ・モッソさん(22歳)は「いったん夜間を閉めてしまったら、再開するのはかなり難しい。USPはブラジル全国の日本語教育のある約10大学の模範となっているから、ここが閉まったら全国的な悪影響は大きい」との懸念を述べた。

 ガブリエラ・サントスさん(20歳)も「何とか力を合わせて授業が減らないようにする必要がある。そうしなければ学生のポテンシャルが下がってしまいます」と危惧する。

 千野チエミさん(21歳)も「ここの卒業生がブラジル全国の大学の日本語学科教員となり、ブラジルの日本語教育のレベルを支えている部分がある」と言う。

 パンデミック前は毎年10人程度が日本留学に向かっていた。日本語学科の大学院修士課程があるのもここだけだ。  

 鈴木悌一さんらの尽力でUSPに日本語学科が創立されたのは1963年、ちょうど60年前だ。田代教授は「何とか解決策を探したい。ブラジルの日本語教育のために、皆さんのご理解とご協力をお願いします」と呼びかけた。』

 ブラジル南米の中でも日系移民が多い事でも有名な国。

 日系4世まではVISAの優遇もあり、愛知県や群馬県などを中心にブラジル人が多く日本に住んでいるよね。

 ブラジルにも多くの日系人がいて、日本人の血を誇りに思っている人も多い。東洋言語でありながら、日本語の人気があるのは多くのブラジル人が日本への興味があるからだろう。

 ブラジルの中でも日系人が多いのがサンパウロだ。
 サンパウロにはリベルダージという日本人街も存在する。

 アメリカのロサンゼルスのリトルトーキョーと並ぶ日本人街として有名だ。  ただ、最近は日本人よりも中国人や韓国人などの比率が多くなって「東洋人街」になっているようだけど、それでも日本人には馴染みがある場所に変わりはない。

 そのサンパウロ日本語教育を支えているのがサンパウロ総合大学(USP)文学部日本語学科だ。
 いや、ブラジルでも日本語と言えば、サンパウロ総合大学というくらいだから、ブラジルの日本語教育を担っているとも言っても過言ではないだろう。  

 ただ、ここでも書かれているようにサンパウロ総合大学(USP)サンパウロ州政府の管理下にある。

 最近のブラジルルラ大統領が復活し、変化もみられるようだけど、経済状態は決していいようではないようだ。

 まあ、ブラジルだけでなく、ロシアのウクライナ侵攻以来、ガソリンや食料など多くの分野で世界の経済は悪くなっているけどね。

 サンパウロ日本人になじみがある街とはいえ、世界を代表する大都市でもある。だからサンパウロ州政府としては日本語教育なんかに興味がなく、予算がないから仕方がないという態度なのだろう。  
 
 日本語学科について、そんなに真剣には考えていないのは明白である。
 日本語教員が補充されなくて半分になれば、いくら熱意のある教師と言えども限界があるのは確かだ。  

 日本語の昼夜コースがあるというのも凄いが、夜間は働いている人が通うケースが多い。逆に言えば、それだけ熱意や目的意識が高いともいえる。仕事が終わってからでも大学の夜間コースで日本語を学ぼうとするのは、かなりのモチベーションだろう。

 サンパウロ総合大学(USP)の教師と学生がブラジル日報を訪れたのは、日系関係者に協力してもらおうということのようだ。

 ラテンアメリカでは州政府など公立の組織を頼りにしても無駄なことがよくある。
 こういう日本語教育に理解がある所に助けを求めるのは正解だろう。

 このブラジル日報というのは、日本語で書かれた新聞を2021年から発行しているところだ。  

 ブラジルには以前は、サンパウロ新聞ニッケイ新聞があったが最近なくなった。その代わりに日系人オピニオンリーダーとしてブラジル日報ができたようだね。  

 実際、ブラジル日報にとっても日本語を理解できる人口が減るのは問題だろう。
 邦字紙だから、日本語が読める人口が減ることは収益にも直結するはずだ。
 日系人以外にも日本語を学んだ人がいれば、それだけブラジル日報を利用してもらえる可能性は高まる。

 何より日本に興味をもっているブラジル人を多く育てることは、日伯関係においてもかなり大事だ。
 親日の数は、将来の日本とブラジルとの関係にも影響する。
 日本の経済が弱くなり、日本語を学ぶ学生が以前よりも減る可能性が高い。

 日本語を勉強することは、その使用言語者の精神や考え方を学ぶことにも通じる。  そういう中で遠く日本から離れた南米のブラジルで、日本文化日本人の考え方を提供できる場を潰してはいけないなと切に思う。