柔道精神で地域改善

ブータンで柔道の訳

『“幸福の国”ブータンで、柔道をする若者が増えているという。ブータンで初めて道教を開いた日本人を取材。柔道を広める背景には、ブータンが抱える社会問題が関係していた。

 ■決め手は“教育的なものが取り入れられていたこと”  

  稽古に励むブータンの子どもたち。この道教を開いたのは、片山理絵さん(50)だ。

 片山さん:「すごく楽しんでくれてます。今いる先生にもお願いしているが、特に初心者が楽しい柔道っていうところを強調してほしいとお願いしている」

 大学時代に知り合ったブータンと2001年に結婚し、ブータンに移住。  

 そして、2010年に「教育に貢献したい」という夫と共に、中高一貫校を開校した。 同時に道教を開いたというが、なぜ柔道だったのだろうか?  

 片山さん:「柔道の哲学の根底に、教育的なものが多く取り入れられていたことが決め手となりまして、柔道を紹介させていただくことになった」

 ■広がる“薬物犯罪” 柔道でどう撲滅しようとした?

  ブータンでの柔道の普及は、ワンチュク国王の願いでもあるという。

  2011年に夫妻で来日した際には、柔道の総本山である「講道館を訪れていた。
  この時、国王にはブータンで初めてとなる、初段の黒帯が贈られた。

  シドニー五輪柔道 金メダル・井上康生氏:「柔道の心も理解されているうえで、柔道を国で普及させていきたいということで感銘を受けました」  

 そして、片山さんが柔道を広めようとしたもう一つの理由。それは、ブータンにはびこる“ある深刻な問題”だという。

  片山さん:「薬物犯罪は(2010年当時から)ブータンは大きな問題でして。例えば、勉強の時に集中できるとか、不安な気持ちを忘れられるとか、そういったところから簡単に手を出してしまうんです。若者たちがそういったことをやってしまっているのが実情です」  

 ブータン警察によると、去年、薬物事件で逮捕された若者は人口およそ78万人に対して727人。過去5年間で最多となり、深刻な問題になっているという。

  少しでも“若者の薬物問題をなくしたい”と道教を始めたというが、なぜ柔道だったのだろうか。  
 片山さん:「柔道を学ぶことによって、礼儀作法が自然に身につくと思う。柔道を通して学んだことで、そういったこと(薬物)に手を出さない子どもになっている。柔道をしている子どもたちは、1人として薬物に手を出した子はいません、今まで」

 ■ブータン初“国際規格の柔道場” 日本政府が建設・支援

  しかし、これまでの苦労は数えきれないという。  最初は、柔道には当たり前の「畳」もなかったため、隣国インドから運動用のマットを輸入し、屋根裏部屋で指導を始めたという。

  徐々に柔道が認知され始めてからは、屋外で柔道を行う「青空教室」の活動も。今では、若者の競技人口が数百人まで増えているという。

 そして、おととしの東京オリンピック道教の教え子だった、ガワン・ナムゲル選手(当時22)が招待枠で初出場した。

 初戦で敗れたものの、ブータン柔道の歴史的な一歩を刻んだ。

 また去年7月には、日本政府が「文化無償資金協力」で建設・支援した、ブータン初の国際規格の柔道場も完成した。

 ■ブータンに“柔道精神”を 日本人女性の夢

  さらに、子どもたちが国際大会で“勝てる体”をつくるため「ゆでたまご」を食べていることを知った、ある日本人が支援を名乗り出た。  

  片山さん:「ゆでたまご先生が『それは面白い』ということで協力させてほしいと。ブータン柔道協会に、年間を通して、プロテインを供給してくれるという話まで、ゆでたまご先生がつないでくれた」  

 人気漫画「キン肉マンの作者ゆでたまご」の嶋田隆司氏だ。  

 ただ、ブータンは卵の値段が高いため、企業と手を組み「プロテイン」を支援している。

  片山さん:「若い人たちの悩みがあると思うが、それはどうしてかというと、自分を見つめる機会がないからだと思う。そういった機会を少しずつ与えることができれば、問い掛けをして彼らが考えて言葉にする。そんな習慣が身に付いてくれれば、というのが私の願いですね」

 ブータンで根付く柔道の精神。現在は、教え子のパリオリンピックでの活躍を目指して奮闘中だという。

 ■今後は…「柔道を通したコミュニティーを作りたい」  

  日本の柔道ブータンで広めている片山さんだが、今後についても話している。

 片山さんは、「他の学校にも道教を開いたり、誰でも参加できる青空教室の活動を行うことで、柔道を通したコミュニティーを作ることに力を入れていきたい」といい、「地域の子どもたちが変わっていかないと社会は変わらない」と話している。』

 ブータンってインドと中国の間にある小国。
 物質的幸福よりも国民総幸福量を目指すブータンは「幸せな国」とマスコミに取り上げられることもある。

 だけど、そういういい面だけの情報を流しているだけではマスコミは失格だ。

 今回、ブータン在住の日本人、片山さんのインタビューは現地の問題点を把握し、自分は何ができるかを考えて行動している点で素晴らしい。

 片山さんって2010年に「教育に貢献したい」という夫と共に、中高一貫校を開校しているようで、本当にブータン人の人材育成に貢献しているんだろうなと思う。

 いくら国民総幸福量を目指していても、若者は物質的な豊かさに憧れるのは仕方ないと思う。逆に言うと、物的豊かさを満足に満たすのは難しいから、別の視点で幸福を説いている面もあるのではないだろうか。

 国で自給自足を目指すというなら別だが、実際はネットなどで世界の状況が把握できていないと、どんどん世界から遅れて行っていることになる。

 実際、ブータンは小国で、外交面などでもインドに頼っている。自分達だけで生きていけるという状況ではない。

 そんな状況で、柔道が選ばれた理由は 柔道の精神が、自分を見つめる機会がないブータンの若者に機会を少しずつ与えているのではないかと思われている。 精神が人を変えるのは真理だ。

 実際、少しずつ若者を取り巻く環境が変わっていっているのは、少しずつ柔道の精神の成果が出ているとみていいのではないだろうか。

 日本のトップアスリートの道家のようにオリンピックに出て金メダルを取るということを目指しているわけではない。一部を除いて世界を目指すというわけではない。

 だけど、柔道が強くなる以上に、日本の精神を伝えて、環境を変えていくなら、それはそれで素晴らしいことではないだろうか。

 個人的には、オリンピックでメダルを取るのも凄いが、地域社会を改善できるならより影響力が大きく価値があるのかなと思う。

 もちろん目的は個々人によって違っていてよく、金メダルを目指してそれを実現した人は、そのメダル獲得の過程で色々な困難を乗り越えた経験をもっている分、人間的には深みを増していることだろう。  

 柔道がすんなり受け入れられている理由の1つとして、ブータン親日というのもあると思う。  同じアジア人の中でもブータン日本人と非常によく顔つきが似ている。

 ブータン国王も日本の天皇家との交流もある。  日本のODAを始め、青年海外協力隊(JOCV)なども活躍しているから、柔道をすんなり受け入れる土壌があったとも言えるよね。

 それに誰だって、尊敬していない国の精神なんて学びたいとも思わないだろう。  

 こういうブータンのようにあまり日本のニュースに取り上げられない国の状況を取り上げてくれるのはいいね。