ES細胞と倫理

キメラ猿

『【ワシントン=冨山優介】様々な細胞に変化できる胚性幹細胞(ES細胞)を使い、遺伝的に異なる細胞が交じり合った「キメラ」のサルを誕生させることに成功したと、中国科学院などのチームが発表した。  論文が9日、科学誌セルに掲載される。

 ES細胞を使ってキメラサルを誕生させたのは初めて。遺伝子改変などがしやすいES細胞を使うことで、病気を再現したサルを生み出すことが容易になり、治療法などの研究が進むと期待されるという。  

    チームは、カニクイザルの受精卵からES細胞を作製。様々な細胞に変化できる能力を高める操作を加えたうえで、別の受精卵に注入した。この受精卵74個をメスザル40匹の子宮に1~2個ずつ移植したところ、うち6匹がそれぞれ1匹の赤ちゃんを産んだ。

 オスの赤ちゃんサル1匹について、心臓や腎臓、精巣など20種類以上の臓器や組織を調べたところ、ES細胞由来の細胞が占める割合は平均で67%で、脳では92%に達していた。赤ちゃんサルは生後10日で呼吸不全や低体温となり、安楽死させた。

 サルのキメラは、複数の受精卵を凝集させる方法で作製した例が2012年に報告されている。

 八代嘉美・藤田医科大特任教授(幹細胞生物学)の話
  「ヒトに近い霊長類であるカニクイザルでキメラの作製に成功した意義は大きい」

 ◆キメラ=ある生物の個体の中で、遺伝的背景が異なる細胞が混在している状態を指す。ギリシャ神話に登場する頭がライオン、体がヤギ、しっぽが蛇の怪獣の名前が由来となっている。』

 中国キメラサルが誕生したというニュース。  

 キメラサルというのは、胚性幹細胞(ES細胞)を使い、遺伝的に異なる細胞が交じり合ったサルのことだ。

 遺伝子改変などがしやすいES細胞を使うことによって、病気を再現したサルを生み出すことが簡単になるので、治療法などの研究が進むのではないかということだ。

 遺伝子を変更しやすいので病気のサルを人工的に作り出せるので、その病気の治療法が進むという理屈だ。

 確かに、難病と言われている病気などは特に症例が少ない。  
 同じような状況が作り出せれば、その病気の研究がしやすくなるのは間違いないだろう。

 ただ、細胞の研究が急速に進歩している中、倫理的な課題が追い付いていない。  
 病気の状態が作れるなら、超優秀な遺伝子を持ったサルも作れるという事だろう。

 ES細胞由来の細胞が占める割合は脳で92%に達していたという。
 つまり、運動能力に優れた細胞や頭脳明晰になる細胞などがあるとしたら、ES細胞を操作すれば通常よりはるかに高い数値の人間も作ることができるようになるのではないか。

 それとも、ES細胞万能細胞と言われているものの、本来持っている遺伝子との間で制限があったりするのだろうか。

 人間の能力、才能は親からの遺伝の影響が大きい。元々の才能というのは、遺伝子レベルで備わっている。

 素晴らしい遺伝子を持った人間が努力をすれば「鬼に金棒」だ。いわゆるその業界での天才が出来上がる。 逆に、いくら努力量が他の人より上回っても遺伝子がよくなければ超一流にはなれない。

 同じ努力、いやそれ以上の努力をしたとしても、我々はウサイン・ボルトのように100mを速く走ることはできないし、藤井聡太さんのように将棋が強くはならないのだ。

 ところが、キメラ人間ができたらどうだろうか。 ES細胞由来の細胞が平均70%近く占めるとなれば、親からの受け継いだ遺伝子はあまり影響がないことになる。

 遺伝的にガンになりやすいとか、心不全になりやすいなどの遺伝子を変更することによって、生まれてくる赤ちゃんの性質を変えることができそうだ。 そういう健康上のリスクを生まれてくる前に取り除くことができるのかもしれない。 それはメリットだ。

 一方で、オリンピックなどは面白くなくなるかもしれない。

 今でもドーピングなど厳しく行われているが、運動に最適な遺伝子の組み合わせをして生まれてきた人はどうなんだろうか。

 努力よりも遺伝子によってほとんどの成績の優劣が決まるとなれば、私達はこれまでと同じように「頑張れ!」と応援できるだろうか。感動が生まれるだろうか。

 もちろん最高レベルの遺伝子の組み合わせの人間ばかりであれば、努力の差が出てくるだろう。

 その場合、ES細胞で最高の組み合わせをしていない人は、そもそも勝負の土俵にさえ上がらなくなるのかな?

 生まれてくる前に遺伝子が操作されていたからと言って、失格にするということができるだろうか。その本人には何も罪はない。

 キメラ人間は病気の治療に貢献できる反面、倫理面では多くの課題が残されているようだ。